
この記事は、自分の想いを語るのは照れくさいけれど、共感してくれるお客さんに出会いたい社長に読んでほしいと思って書きました。
「なぜ、この会社を始めたのですか?」と聞かれたら、どう答えるでしょうか。
社長の頭の中には、会社を始めたきっかけや、ゆずれないこだわりがあるはずです。でも、それをホームページに書こうとすると、「創業〇年、地域とともに歩んできました」のような、どの会社にもありそうな文章になってしまう。そんな悩みをよく聞きます。
社長の想いを、お客さんが「この会社に頼みたい」と思える形にまとめたものが、ブランドストーリーです。この記事では、ブランドストーリーの意味から、物語の型、紙とペンでできる作り方5ステップまでをまとめました。
この記事でわかること
- ブランドストーリーの意味と、沿革・理念との違い
- 中小企業にブランドストーリーが必要な理由
- 物語の「型」と、主人公の置き方
- ブランドストーリーの作り方5ステップと、よくある失敗
ブランドストーリーとは「想いを、お客さんが自分ごとにできる物語」
ブランドストーリーとは、会社がなぜ生まれ、何を大切にし、お客さんに何を約束するのかを、物語の形で伝えるものです。
大事なのは、ただの「会社の歴史」ではないということ。読んだお客さんが「自分も同じことで困っていた」「だからこの会社なんだ」と、自分ごととして受け取れることが、ブランドストーリーの役目です。
ブランドストーリーと「沿革」「理念」の違い
| 何を書くか | 読んだ人の気持ち | |
|---|---|---|
| 沿革 | いつ、何があったか(年表) | 事実はわかる |
| 理念 | 会社が大切にする考え(短い言葉) | 立派だと思う |
| ブランドストーリー | なぜ始め、誰のために、何を約束するか | 共感して、頼みたくなる |
沿革や理念は、ブランドストーリーの材料です。年表の中の出来事に「なぜ」と「誰のために」を足して、ひとつの流れにしたものがブランドストーリーになります。会社の「何のためにあるか」を短い言葉にしたい場合は、パーパス経営の考え方も参考になります。
なぜ中小企業にブランドストーリーが必要なのか
商品やサービスの中身だけで比べると、中小企業どうしの違いは、お客さんには見えにくいものです。そこで差になるのが、「誰が、どんな想いでやっているか」です。
1. 値段以外のものさしで選ばれる
同じような品質、同じような値段なら、お客さんは「この人たちに頼みたい」と思える会社を選びます。想いが伝わっている会社は、値段だけで比べられにくくなります。
2. 覚えてもらいやすく、話してもらいやすい
「品質がいい会社」は、人に話すときに説明しにくいものです。でも、「〇〇で困った社長が始めた会社」なら、一言で人に伝えられます。物語は、紹介してくれる人が話しやすい形でもあります。
3. 社員や採用にも効く
ブランドストーリーは、社外のお客さんだけでなく、社員にも届きます。会社がなぜあるのかを社員が同じ言葉で話せるようになると、仕事の判断がそろっていきます。採用でも、想いに共感した人が集まりやすくなります。社内で言葉をそろえる方法は、インナーブランディングの記事でくわしく紹介しています。
つまり、ブランドストーリーは「いい話」を書くためのものではなく、選ばれる理由を、記憶に残る形で手渡すための経営の道具です。
物語には「型」がある
物語の型として有名なのが、アメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベルが1949年の著書『千の顔をもつ英雄』で示した考え方です。世界の神話には、主人公が日常から旅立ち、試練をこえて、成長して帰ってくるという共通の流れがあるとしました。この流れは「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」と呼ばれ、映画などの物語づくりにも使われています。
会社のブランドストーリーでは、これをもっとやさしく、3つの場面にまとめて考えると書きやすくなります。

ブランドストーリーの3つの場面
- きっかけ:社長が出会った「困っている人」や「おかしいと思ったこと」
- 転機:それを解決するために始めた工夫、ゆずれないこだわり
- 約束:その結果、これからお客さんに何を約束するのか
3つの場面がそろうと、読む人は「なぜこの会社があるのか」「自分に何をしてくれるのか」を、一つの流れとして受け取れます。どれか一つが欠けると、ただの思い出話や、ただの宣伝文になってしまいます。
主人公は、社長ではなくお客さん
ブランドストーリーで一番大切なのは、主人公を誰にするかです。社長の苦労や成功を主役にすると、読む人には「すごい人の話」に聞こえ、自分ごとにはなりません。
主人公はお客さん。会社は、お客さんの困りごとを一緒に解決する「案内役」として登場させます。こうすると、読んだお客さんが物語の中に自分を重ねやすくなります。

ブランドストーリーの作り方5ステップ
ここからは、紙とペンを用意して、書きながら進めてみてください。

上手な文章を書こうとしなくて大丈夫です。最初は箇条書きでかまいません。社長が本当に感じたことを、そのままの言葉で書き出すことが一番の近道ですよ。

ステップ1:会社の「原点」を書き出す
まず、会社を始めたとき、または今の仕事に本気になったときのことを思い出します。立派な理由でなくてかまいません。
- 「これはおかしい」「もっとこうすればいいのに」と思ったことは何か
- 誰かの困っている姿を見て、何とかしたいと思ったことはあるか
- やめようと思ったときに、続けた理由は何だったか
ワーク 上の3つの問いに、思いつくままに答えを書きましょう。できごとは、いつ・どこで・誰と、までできるだけ具体的に書きます。
ステップ2:物語の「主人公(お客さん)」を決める
次に、その原点の場面にいた「困っている人」を、今のお客さんと重ねます。一番来てほしいお客さんを1人思い浮かべ、その人が何に困っていたのかを書き出してください。
ステップ1の社長の体験と、お客さんの困りごとが重なるところに、物語の芯があります。
たとえば、架空の設計事務所なら「はじめて家を建てる人が、専門用語ばかりの打ち合わせで不安になっていた」。架空の会計事務所なら「創業したばかりの社長が、お金の数字を誰にも相談できずにいた」。こうした一文が、物語の入り口になります。
ワーク 一番来てほしいお客さんを1人決めて、「〇〇な人が、〇〇で困っていた」という一文を書きましょう。
ステップ3:こだわりを「なぜ」とセットで言葉にする
困りごとを解決するために、会社が大切にしているやり方やこだわりを書きます。ここでは、必ず「なぜそうするのか」をセットにしてください。
「手作業にこだわっています」だけでは、ただの説明です。「機械だと、一人ひとりの体に合わせられないから、手作業にこだわっています」と理由を足すと、想いが伝わる言葉になります。
ワーク 会社のこだわりを3つ書き出し、それぞれに「なぜなら〜」を一文ずつ足しましょう。
ステップ4:お客さんへの「約束」でしめくくる
物語の最後は、過去ではなく、これからの話で終わらせます。「だから私たちは、〇〇な人に、〇〇を約束します」という形です。
約束は、会社の軸になる言葉でもあります。軸を一言で決める方法は、ブランドコンセプトの作り方でも紹介しています。
ステップ1〜4を、次の型に当てはめると、短いブランドストーリーができあがります。
(きっかけ)〇〇なことに困っている人を見て、〇〇だと思った。
(転機)だから私たちは、〇〇にこだわって、〇〇を始めた。
(約束)これからも、〇〇な人に、〇〇を約束します。
記入例(架空の例です)
家族で営むクリーニング店の例です。
「大切な服ほど、どこに出せばいいか迷う。そんな声を、お店のカウンターで何度も聞いてきました。だから私たちは、一着ずつ素材を確かめ、仕上がりを写真でお見せしてからお返しすることにしました。思い出のある服を、安心して預けられるお店であり続けることを約束します。」
ワーク 型に当てはめて、200〜300文字のブランドストーリーを書き、声に出して読んでみましょう。
ステップ5:長い版と短い版を作って、使い分ける
ブランドストーリーは、使う場所によって長さを変えます。中身は変えずに、長さだけを調整するのがポイントです。
- 長い版(800〜1,000文字):ホームページの「私たちについて」、会社案内
- 短い版(200〜300文字):採用ページ、営業資料の1ページ目
- 一言版(30文字前後):名刺、SNSのプロフィール、自己紹介
できあがったら、使う場所を少しずつ広げていきます。まずはホームページの「私たちについて」に長い版をのせ、名刺やSNSのプロフィールを一言版にそろえるところから始めると、手間をかけずに同じ物語をくり返し届けられます。社員が自己紹介やお客さんとの会話で使えるように、社内で読み合わせをしておくのもおすすめです。
ワーク ステップ4の文章をもとに、一言版を3つ書き出し、一番しっくりくるものを選びましょう。
ブランドストーリーで、よくある3つの失敗
1. 苦労話や自慢話になってしまう
「創業時は資金がなく、寝る間もおしんで働いた」。社長にとっては大切な話でも、お客さんにとっての得がなければ、読み飛ばされてしまいます。
こう直す:苦労のあとに「その経験があるから、お客さんに〇〇ができる」と、お客さんの得をつなげて書きます。
2. かっこよく見せようと、話を盛ってしまう
物語にしようとするあまり、実際にはなかった出来事を足したり、大げさに書いたりするのは逆効果です。お客さんや社員が知っている事実とずれると、信頼をなくします。
こう直す:書いた内容を、昔からいる社員や長いお付き合いのお客さんに読んでもらい、「本当にこうだった」と言えるかを確かめます。
3. 長すぎて、最後まで読まれない
想いが強いほど、文章は長くなりがちです。でも、ホームページの読み手は、最初の数行で読むかどうかを決めます。
こう直す:最初の2行に、ステップ2の「困っている人」を登場させます。読み手が「自分のことだ」と思えれば、続きを読んでくれます。
ブランドストーリーのセルフチェック(すべて「はい」なら合格)
- 主人公はお客さんになっているか(社長の自慢話になっていないか)
- 「きっかけ・転機・約束」の3つの場面がそろっているか
- こだわりに「なぜ」がついているか
- 書いてあることは、すべて本当にあったことか
- 最後が、お客さんへの約束で終わっているか
よくある質問
Q. 劇的なエピソードがないのですが、作れますか?
はい、作れます。ブランドストーリーに必要なのは、ドラマのような出来事ではなく、「なぜこの仕事を大切にしているか」という理由です。日々の仕事の中で「これはゆずれない」と感じていることが、そのまま物語の芯になります。
Q. 2代目・3代目の社長でも作れますか?
はい。創業者の想いを受けつぎつつ、「自分は何を大切にして続けていくのか」を足すと、今の会社の物語になります。創業のきっかけと、今の社長の約束の両方を書くのがおすすめです。
Q. 一度作ったら、変えてはいけませんか?
きっかけや転機は変わりませんが、約束は事業の変化に合わせて見直してかまいません。年に一度、今のお客さんへの約束として合っているかを確かめるとよいでしょう。
まとめ:物語は、社長の中にすでにある
この記事のまとめ
- ブランドストーリーとは、会社の想いを、お客さんが自分ごとにできる物語にしたもの
- 主人公はお客さん。会社は困りごとを一緒に解決する案内役
- 物語は「きっかけ」→「転機」→「約束」の3つの場面で考える
- 作り方は「原点」→「主人公」→「こだわりとなぜ」→「約束」→「長さの使い分け」
- 盛らない。本当にあったことだけで書く
ブランドストーリーは、作り話ではありません。社長がこれまで大切にしてきたことを、お客さんの目線で並べ直したものです。だからこそ、言葉にした物語は、会社がどの方向に進むかを決める経営の軸にもなります。

自分の想いを言葉にするのは、少し照れくさいものです。でも、その照れくさい言葉の中にこそ、お客さんの心に届くものがあります。まずは一行、書いてみてくださいね。
ブランドストーリーを、経営戦略から一緒に考えませんか
UNIBRANDでは、言葉もデザインも経営戦略のひとつと考えています。社長のお話をうかがい、どんなお客さんに何を約束するのかという戦略から考えて、物語の言葉やデザインの形にするところまでお手伝いしています。
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