
この記事は、会社の軸をひと言で言えず、判断に迷うことが多い社長に読んでほしいと思って書きました。
「うちの会社のコンセプトは何ですか?」と聞かれたら、すぐに答えられるでしょうか。
ホームページを作り直すとき、新しい商品を考えるとき、デザイン会社に仕事を頼むとき。「コンセプトを教えてください」と言われて、言葉につまった経験がある社長も多いのではないでしょうか。頭の中には想いがあるのに、一言にしようとすると、ありきたりな言葉しか出てこないものです。
ブランドコンセプトは、会社が迷ったときに立ち返る判断の軸です。これが決まっていると、言葉もデザインも、商品づくりも採用も、同じ方向を向きはじめます。つまり、見た目のための言葉ではなく、経営戦略のひとつなのです。
この記事では、ブランドコンセプトの意味から、よいコンセプトの条件、紙とペンで作れる5つのステップまでをまとめました。
この記事でわかること
- ブランドコンセプトの意味と、理念・USP・キャッチコピーとの違い
- 中小企業にブランドコンセプトが必要な理由
- よいブランドコンセプトの3つの条件
- 会社の軸を一言で決める5ステップと、よくある失敗
ブランドコンセプトとは「会社の判断の軸になる一言」
ブランドコンセプトとは、「この会社は、誰に、どんな価値を届けるのか」を一言で表したものです。コンセプトは「全体をつらぬく考え方」という意味の言葉です。
ポイントは、お客さんに見せるための言葉である前に、会社の中で使う言葉だということです。「この商品を出すべきか」「この仕事は受けるべきか」「この写真はうちらしいか」。迷ったときに、コンセプトと照らし合わせて決められる。それが、よいブランドコンセプトです。
理念・USP・キャッチコピーとの違い
ブランドコンセプトと似た言葉はたくさんあります。混ざりやすいので、役割を整理しておきましょう。
| 答える問い | 変えるか | |
|---|---|---|
| 理念(パーパス) | なぜ、この会社があるのか | ほとんど変えない |
| ブランドコンセプト | 誰に、どんな価値を届ける会社か | 事業が大きく変わるときに見直す |
| USP | なぜ、ほかではなくこの会社なのか | お客さんや競合が変われば見直す |
| キャッチコピー | それを、どんな言葉で伝えるか | 媒体や季節で変えてよい |

理念が「なぜ」、ブランドコンセプトが「何を・誰に」、キャッチコピーが「どう言うか」です。上から順番に決めると、言葉がぶれません。理念についてはパーパス経営とは?、選ばれる理由についてはUSPとは?の記事でくわしく紹介しています。
ポイント
キャッチコピーはお客さんの心をつかむための「表現」、ブランドコンセプトは会社の中で迷わないための「軸」です。コンセプトが決まらないままキャッチコピーを考えると、言葉だけがきれいで中身のない広告になってしまいます。
なぜ中小企業にブランドコンセプトが必要なのか
小さな会社では、社長が一人で多くのことを決めています。社長の頭の中には軸があっても、それが言葉になっていないと、社員や外部の協力者には伝わりません。ブランドコンセプトがあると、次のような変化が起こります。
1. やること・やらないことが決められる
お客さんの要望に全部こたえようとすると、仕事の中身がどんどん広がり、何の会社なのかがわからなくなります。コンセプトがあれば、「これはうちの仕事」「これはうちらしくない」と決められます。断る理由がはっきりすると、得意な仕事に力を集中できます。
2. 社長がいなくても、会社らしい判断ができる
社員が迷ったときに「コンセプトに合っているか」で考えられると、社長に毎回聞かなくても判断できるようになります。会社が大きくなるほど、この効き目は大きくなります。
3. デザインや発信の頼み方がうまくなる
デザイン会社やホームページ制作会社に仕事を頼むとき、コンセプトが決まっていれば、伝えることが一言ですみます。「なんとなくかっこよく」ではなく、「この一言に合うデザインに」と頼めるので、できあがりのずれが減ります。

コンセプトは、立派な言葉である必要はありません。社長が毎日の判断で「これはうちらしいか」と使える一言なら、それが一番よいコンセプトです。
よいブランドコンセプトの3つの条件
アメリカのマーケティング学者ケビン・レーン・ケラーは、1993年の論文で、ブランドが強くなるには、お客さんの頭の中にあるイメージが「強く、好ましく、ほかにないもの」であることが大切だと整理しました。この考え方をもとにすると、よいブランドコンセプトの条件は次の3つにまとめられます。

1. 覚えやすい:短く、くり返し言える
社員が朝礼で言えないほど長いコンセプトは、使われなくなります。目安は、ひと息で言える長さです。くり返し口にできる言葉ほど、お客さんの頭にも強く残ります。
2. お客さんの得がわかる
「最高品質を追求する」は会社の目標ですが、お客さんにとって何が得かは伝わりません。「誰の、どんな困りごとがなくなるのか」がわかる言葉にすると、お客さんにとって好ましいイメージにつながります。
3. ほかにない:その会社らしさがある
社名を同業の会社に入れ替えても通じるなら、それはまだコンセプトになっていません。その会社の歴史や、社長のこだわり、お客さんとの関係から生まれた言葉は、ほかの会社にはまねできません。
ブランドコンセプトの例(いずれも架空の例です)
- リフォーム会社:「住みながら直す人の、いちばん静かな工事」
- 学習塾:「勉強がきらいな子の、最初の『わかった』をつくる塾」
- 印刷会社:「小さな店の販促を、刷る前から考える印刷屋」
- 介護用品店:「家族が先に笑顔になる、介護の道具屋」
どれも「誰のための会社か」と「どんな得があるか」が入っていて、ほかの会社がそのまま使える言葉にはなっていません。
また、どの例も「何でもやります」とは言っていません。来てほしいお客さんを一人に絞り、その人の困りごとに向けて言い切っています。絞ると、ほかのお客さんが来なくなるのではと心配になるかもしれません。でも実際には、言い切った言葉のほうが記憶に残り、「あの会社なら、こういうことも相談できそう」と、まわりのお客さんからも声がかかりやすくなります。
ブランドコンセプトの作り方5ステップ
ここからは、紙とペンを用意して進めてみてください。社長一人でもできますが、社員と一緒に進めると、できあがったコンセプトが社内に広がりやすくなります。

ステップ1:材料を書き出す
コンセプトは、ゼロから考えるものではありません。すでに会社の中にある材料を集めるところから始めます。
- 会社を始めた理由、続けてきた理由
- お客さんから言われてうれしかった言葉
- ほかの会社がやっていない、うちだけのやり方
- これだけはゆずれない、というこだわり
ここでは、きれいにまとめようとしなくて大丈夫です。思いついたことを、短い言葉でどんどん書き出してください。
ワーク 上の4つの問いに、それぞれ5つずつ答えを書き出しましょう。合わせて20個の言葉が、コンセプトの材料になります。
ステップ2:誰のための会社かを決める
次に、一番来てほしいお客さんを決めます。「なるべく多くの人に」と思うほど、コンセプトはぼやけていきます。これまでで一番喜んでくれたお客さんや、また来てほしいと心から思うお客さんを1人思い浮かべてください。
その人がどんなことで困っていたのか、なぜうちを選んでくれたのかを書き出します。この「誰」が、コンセプトの主語になります。
ワーク 一番来てほしいお客さんを1人決めて、「どんな人か」「何に困っていたか」「なぜうちを選んだか」を3行で書きましょう。
ステップ3:約束する得を1つ選ぶ
ステップ2のお客さんにとって、うちの会社を選ぶと何が得なのかを考えます。ステップ1の材料の中から、その人が一番喜ぶものを1つだけ選んでください。
得が2つも3つもあると、どれも印象に残りません。ほかの得は、コンセプトを支える材料として、ホームページや営業資料で伝えれば大丈夫です。
ワーク ステップ1の20個の言葉から、ステップ2のお客さんが一番喜ぶものに丸をつけ、「この人にとって何が得か」を一文で書きましょう。
ステップ4:「らしさ」を言葉にする
同じ得でも、どんな雰囲気で届けるかは会社によって違います。「まじめ」「親しみやすい」「職人らしい」「明るい」。自分の会社の空気に合う言葉を選びます。
迷ったら、社員やお客さんに「うちの会社を人にたとえると、どんな人?」と聞いてみてください。思いがけない言葉が返ってきて、それがらしさのヒントになることがあります。
ワーク 会社の雰囲気を表す言葉を5つ書き出し、社員やお客さんに聞いて一番多く出た言葉に丸をつけましょう。
ステップ5:一言にまとめて、確かめる
最後に、ここまでの材料を次の型に当てはめます。
「(誰)の、(どんな得)を、(どんならしさ)で届ける会社」
最初は長くてかまいません。何度か読み返して、なくても意味が通じる言葉を削っていくと、だんだん一言に近づきます。候補ができたら、前の章の3つの条件と照らし合わせてください。社名を同業の会社に入れ替えても通じてしまうなら、ステップ1に戻って材料を足します。
ワーク 型に当てはめた候補を3つ作り、声に出して読んでから、社員とお客さんに「これ、うちらしい?」と聞いてみましょう。

一言にまとめる作業は、何度も行ったり来たりするものです。しっくりこなくても、材料はもうそろっています。焦らず、声に出して読みながら少しずつ削ってみてくださいね。
ブランドコンセプトづくりで、よくある3つの失敗
1. きれいな言葉を並べてしまう
「未来を創る」「笑顔あふれる」「心をつなぐ」。響きはよくても、何をする会社なのかが伝わりません。判断の軸としても使えません。
こう直す:「誰の」「どんな得」が入っているかを確かめます。入っていなければ、ステップ2・3で決めた言葉を足します。
2. 決めたあと、使わずにしまってしまう
時間をかけて作ったのに、会議の資料に一度書いただけで終わってしまう。これも多い失敗です。使われないコンセプトは、ないのと同じです。
こう直す:新しい商品や仕事を決めるとき、「これはコンセプトに合っているか」を必ず一度、声に出して確かめるようにします。
3. 社長の想いだけで決めてしまう
社長の想いは大切ですが、それだけで決めると、お客さんが感じている会社の姿とずれることがあります。社長が当たり前だと思っていることが、お客さんにとっては一番の決め手だった、ということもよくあります。
こう直す:ステップ5で、必ずお客さんにも聞きます。「そうそう、それ!」と返ってきたら完成です。
できあがったら:コンセプトをどう使う?
ブランドコンセプトは、会社の中で使うほど力を持ちます。まずは次の場所から使い始めてみてください。
ブランドコンセプトを使う4つの場面
- 新しい商品や仕事を決めるときの判断基準として
- ロゴやホームページを頼むときの、デザイン会社への説明として
- 朝礼や会議で、社員とくり返し確かめる言葉として
- 求人票の会社紹介の、一番はじめの一文として
コンセプトをもとに、ブランド全体の方針を決めていく方法はブランド戦略の立て方の記事でくわしく紹介しています。
よくある質問
Q. ブランドコンセプトは、お客さんに見せるもの?
そのまま見せてもかまいませんが、主な役割は会社の中の判断の軸です。お客さんに向けては、コンセプトをもとにしたキャッチコピーで伝えるほうが届きやすい場合もあります。
Q. 事業が複数ある会社は、どうすればいい?
まずは会社全体のコンセプトを1つ決めてから、事業ごとのコンセプトを考えます。会社全体の言葉が、事業ごとの言葉をつなぐ役割をはたします。
Q. 一度決めたら、変えてはいけない?
かんたんには変えないものですが、事業の中心やお客さんが大きく変わったときは見直します。年に一度、「今もこの一言で判断できているか」を確かめるのがおすすめです。
まとめ:ブランドコンセプトは、会社の中にすでにある
この記事のまとめ
- ブランドコンセプトとは、誰に、どんな価値を届ける会社かを表す一言
- 理念は「なぜ」、コンセプトは「何を・誰に」、キャッチコピーは「どう言うか」
- よいコンセプトは「覚えやすい・お客さんの得がわかる・ほかにない」
- 作り方は「材料」→「誰」→「得」→「らしさ」→「一言にして確かめる」
- 作ったあとは、毎日の判断でくり返し使う
ブランドコンセプトは、新しく考え出すものではありません。会社の歴史や、社長のこだわり、お客さんの言葉の中に、すでに材料はそろっています。それを見つけて、一言にまとめるだけです。
ブランドコンセプトを、経営戦略から一緒に考えませんか
UNIBRANDでは、言葉もデザインも、経営戦略のひとつと考えています。社長のお話をうかがいながら、戦略から考えて、言葉やデザインの形にするところまでを、ひとつながりでお手伝いしています。きれいな一言で終わらず、売ることにつながる軸として、会社の想いが届くようにすることを大切にしています。
「想いはあるのに、一言にまとまらない」「ありきたりな言葉しか出てこない」。そんなときは、お気軽にご相談ください。
