ブランド戦略の立て方:中小企業が経営戦略とブランドをつなげる5ステップ

栢原陽子
栢原陽子

この記事は、ブランドづくりと経営戦略が別々になっていて、どうつなげればいいか分からない社長に読んでほしいと思って書きました。

「ブランド戦略」と聞くと、大きな会社が広告会社と一緒に作るもの、と思っていないでしょうか。

「ロゴは作った。ホームページもある。でも、なぜか選ばれる理由が伝わっていない気がする」。中小企業の社長から、よく聞くお悩みです。その原因の多くは、デザインの出来ではなく、経営戦略とブランドがつながっていないことにあります。

ブランド戦略は、お金をかけて見た目を整える計画ではありません。会社が「どこで、誰に、どう選ばれたいか」を決めて、それをお客さんの頭の中の印象にまで落とし込む計画です。だからこそ、小さな会社でも、社長がいれば今日から始められます。

この記事でわかること

  • ブランド戦略の意味と、経営戦略・マーケティングとの違い
  • 中小企業こそブランド戦略が必要な理由
  • 経営戦略とブランドをつなげる5ステップ(ワーク付き)
  • よくある失敗と、その直し方

ブランド戦略とは「経営戦略を、お客さんの印象に落とし込む計画」

ブランドとは、お客さんが会社や商品を思い浮かべたときに、頭の中にわいてくる印象のことです。「あの会社は、説明がわかりやすい」「あのお店は、いつ行っても気持ちがいい」。こうした印象の積み重ねが、ブランドです。

つまり、ブランドはロゴやマークそのものではありません。ロゴは、印象を思い出してもらうための「目印」です。目印の奥にある「この会社なら安心」「この会社なら話が早い」という気持ちこそが、ブランドの中身です。

ブランド戦略は、その印象を「なりゆき」に任せず、経営の目標から逆算して決めていく計画です。どんな印象を持ってもらえれば、会社の目標に近づくのか。その印象を作るために、何を言い、何をして、何をしないのか。これを決めるのがブランド戦略です。

経営戦略(どこで勝つか)からブランド戦略(どう覚えてもらうか)、表現と体験(どう届けるか)へと順に流れる3列の図

経営戦略・マーケティング戦略との違い

似た言葉が多いので、違いを表にまとめました。

決めることたとえば
経営戦略会社がどこで勝つか3年後に、法人のお客さんを今の2倍にする
マーケティング戦略どうやって買ってもらうか展示会と紹介で、新しいお客さんに出会う
ブランド戦略どんな印象で覚えてもらうか「相談したら、必ず答えが返ってくる会社」と思われる

3つはバラバラのものではなく、上から順につながっています。経営戦略が決まっていないと、ブランド戦略も決まりません。反対に、経営戦略があっても、ブランド戦略がないと、お客さんに伝わる印象がばらばらになります。

ブランドは「会社の資産」という考え方

ブランドを、ロゴや広告といった「費用」ではなく、会社の「資産」として考える見方があります。アメリカのマーケティング研究者デービッド・アーカーが、1991年の著書『Managing Brand Equity(邦題:ブランド・エクイティ戦略)』で広めた考え方です。エクイティとは、ここでは「価値のたくわえ」という意味です。

資産であれば、一度作って終わりではなく、時間をかけて育てるものになります。そして、育てるには計画が必要です。広告やデザインを、その場その場で決めていると、お金は使っても資産はたまりません。毎回、同じ方向にたまっていくように決めておく。これがブランド戦略の役目です。

ポイント

  • ブランドは、お客さんの頭の中にたまっていく「印象の貯金」
  • 貯金を増やすには、毎回同じ方向に積み立てる計画がいる
  • その計画が、ブランド戦略

なぜ中小企業こそブランド戦略が必要なのか

1. 使えるお金と人が限られているから

大手企業は、たくさんの広告で印象を作れます。中小企業は、そうはいきません。限られた予算で印象を残すには、言うことを絞り、毎回同じことを言い続けるしかありません。何を言い続けるかを決めるのが、ブランド戦略です。

2. 価格以外で比べてもらうため

印象がはっきりしない会社は、お客さんから見ると「どこも同じ」に見えます。同じに見えれば、比べられるのは値段だけです。「この分野なら、あの会社」と思ってもらえる位置どりは、ポジショニングとは?の記事でもくわしく紹介しています。

3. 社長の判断の「ものさし」になるから

新しい商品を出すか、この仕事を受けるか、どんな人を採用するか。ブランド戦略が決まっていると、「それは、うちの約束に合っているか」という一本のものさしで判断できます。迷う時間が減り、社員にも判断をまかせやすくなります。

さらに、ものさしがあると「やらないこと」も決めやすくなります。約束に合わない仕事を断るのは勇気がいりますが、合わない仕事を続けるほど、お客さんの中の印象はぼやけていきます。何をするかと同じくらい、何をしないかを決めることも、ブランド戦略の大切な役目です。

ブランド戦略の立て方5ステップ

ここからは、紙とペンを用意して進めてみてください。

ブランド戦略の立て方5ステップ。経営の目標を確かめる、誰に選ばれたいかを決める、約束を一言にする、約束を体験に落とす、測って見直す
栢原陽子
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最初から立派な計画書を作らなくて大丈夫です。A4の紙1枚に収まるくらいが、いちばん使いやすいブランド戦略ですよ。

ステップ1:経営の目標を確かめる

ブランド戦略は、経営の目標から始まります。「3年後に、会社がどうなっていたいか」を書き出してください。売上の数字だけでなく、「どんなお客さんが増えていてほしいか」「どんな仕事を減らしたいか」まで書くのがコツです。

ここで目標がはっきりしないまま進めると、あとで決める言葉やデザインが「なんとなく良さそう」なものになってしまいます。

ワーク 3年後の会社について、「増やしたいお客さん」「増やしたい仕事」「減らしたい仕事」を、それぞれ1〜3個書き出しましょう。

ステップ2:誰に選ばれたいかを決める

ステップ1の「増やしたいお客さん」から、いちばん選ばれたい相手を1つに絞ります。年齢や会社の大きさだけでなく、「何に困っていて、何を大事にしている人か」まで書いてください。

絞るのは、ほかのお客さんを断るためではありません。いちばん届けたい人に向けて言葉を選ぶと、結果として似た人にも届くようになるからです。

ワーク いちばん選ばれたいお客さんを1人(1社)決めて、「困っていること」「大事にしていること」を3つずつ書き出しましょう。

ステップ3:お客さんへの「約束」を一言にする

ステップ2のお客さんに対して、「うちと付き合うと、こうなれます」という約束を一言にします。これがブランド戦略の中心です。作り方は、USPとは?の記事で紹介している「得と証拠をセットにする」方法がそのまま使えます。

約束の例(いずれも架空の例です)

  • 設備工事会社:「急な故障でも、その日のうちに状況をお知らせします」
  • 社労士事務所:「法律の話を、社員さんにそのまま話せる言葉に直してお伝えします」
  • 洋菓子店:「記念日のケーキを、お客さまの思い出話から一緒に考えます」

ワーク お客さんへの約束を「(お客さん)が、(うちと付き合うと)〜になれる」の形で3つ書き、いちばん守れるものに丸をつけましょう。

ステップ4:約束を「体験」に落とす

約束は、言葉で言うだけでは信じてもらえません。お客さんが会社にふれるすべての場面で、約束が感じられるようにします。この「ふれる場面」を、接点(せってん)といいます。

接点約束が感じられる工夫(架空の例)
ホームページ約束の一言を一番上に置く
問い合わせ対応返事の期限を決めて守る
見積書・資料専門用語に言い換えを添える
アフターフォロー終わったあとに一度連絡する

ロゴや色、言葉づかいも、この接点の一つです。見た目を約束にそろえる方法は、ブランディングデザインとは?の記事でくわしく紹介しています。

ワーク お客さんが会社にふれる場面を5つ書き出し、それぞれで約束を感じてもらうための工夫を1つずつ決めましょう。

ステップ5:測って、見直す

ブランド戦略は、立てたら終わりではありません。約束どおりの印象がお客さんに届いているかを、ときどき確かめます。大がかりな調査はいりません。お客さんや取引先に「うちって、どんな会社だと思いますか?」と聞くだけでも十分です。

あわせて、ステップ2で決めたお客さんからの問い合わせが増えているか、紹介で来た人が約束と同じ言葉で会社を説明しているか、といった変化も見てください。

もし、返ってきた言葉が約束と違っていても、がっかりする必要はありません。それは、どの接点で約束が伝わっていないかを教えてくれるヒントです。ステップ4に戻り、その接点の工夫を見直してください。

ワーク 半年後の日付をカレンダーに入れ、その日に3人のお客さんへ「うちって、どんな会社だと思いますか?」と聞く予定を立てましょう。

5つのステップを、A4の紙1枚にまとめる

最後に、ステップ1〜5で書いたことを、1枚の紙にまとめます。何十ページもある資料は、作った本人でさえ読み返さなくなります。1枚なら、机に置いておけて、社員にも渡せます。

ブランド戦略シート(1枚の型)

  • 3年後の目標:(増やしたいお客さん・仕事、減らしたい仕事)
  • 選ばれたい相手:(困っていること・大事にしていること)
  • お客さんへの約束:(一言で)
  • 約束を感じてもらう工夫:(接点ごとに1つずつ)
  • 見直す日:(半年後の日付)

このシートは、新しい商品を考えるとき、チラシやホームページを作るとき、採用の面接をするときなど、迷ったときにいつでも開くものです。見返すたびに「今の判断は、この1枚に合っているか」を確かめてみてください。書きかえたくなったら、それは会社が成長したしるしです。日付を入れて、新しい1枚を作りましょう。

ブランド戦略で、よくある3つの失敗

見た目から始める場合(ロゴを先に作る、好みで色を選ぶ、担当で言葉が違う)と、戦略から始める場合(約束を先に決める、約束から形を選ぶ、全員が同じ言葉)の比較

1. ロゴやホームページから始めてしまう

見た目は、目に見えるぶん手をつけやすいものです。でも、約束が決まっていないまま作ると、きれいでも「何の会社か」が伝わらない形になりがちです。

こう直す:ロゴやホームページを作る前に、ステップ1〜3を終わらせ、約束の一言を制作する人に渡します。

2. 経営の目標とつながっていない

「おしゃれな会社に見られたい」という印象を決めても、それが売上や採用につながらなければ、経営の役には立ちません。

こう直す:決めた印象ごとに、「この印象が広まると、3年後の目標の何に近づくか」を一行で書き添えます。

3. 社長の頭の中だけにある

社長が考えていても、社員が知らなければ、お客さんが接する場面ではいつもの対応のままです。

こう直す:約束の一言と、接点ごとの工夫をA4の紙1枚にまとめ、朝礼や会議で読み合わせます。

ブランド戦略のセルフチェック(すべて「はい」なら合格)

  • 3年後の経営の目標と、ブランドの約束がつながっているか
  • いちばん選ばれたいお客さんが、1つに決まっているか
  • お客さんへの約束が、一言で言えるか
  • お客さんとの接点ごとに、約束を感じてもらう工夫があるか
  • 社員が、約束を同じ言葉で説明できるか

よくある質問

Q. ブランド戦略は、社長ひとりで決めていいですか?

最初の案は、社長ひとりで作ってかまいません。経営の目標を一番わかっているのは社長だからです。ただし、ステップ4の接点の工夫は、実際にお客さんと接している社員と一緒に考えると、守れる工夫になります。

Q. 事業が複数あるときは、どうすればいいですか?

まずは会社全体の約束を一つ決め、事業ごとの約束は、その下に置く形にします。事業ごとにバラバラの約束をすると、お客さんから見て一つの会社に見えなくなるためです。

Q. どのくらいで効果が出ますか?

印象は少しずつたまっていくものなので、すぐに大きく変わるものではありません。ただ、社内の判断に迷わなくなる、言葉がそろうといった変化は、決めたその日から始まります。まずは半年後の見直しの日まで、決めた約束を守り続けることを目標にしてみてください。

まとめ:ブランド戦略は、経営戦略の続きにある

この記事のまとめ

  • ブランド戦略とは、経営戦略をお客さんの印象に落とし込む計画
  • ブランドは、時間をかけて育てる会社の資産
  • 立て方は「目標」→「誰に」→「約束」→「体験」→「見直し」の5ステップ
  • 見た目より先に、約束を決める
栢原陽子
栢原陽子

ブランド戦略は、社長がふだん考えている経営のことを、お客さんの目線で言い直す作業です。むずかしく考えず、まずはステップ1の3つを書き出すところから始めてみてくださいね。

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