
この記事は、「何でもできます」と言ってしまい、なかなか覚えてもらえないと感じている経営者に読んでほしいと思って書きました。
「〇〇といえば、どの会社を思い浮かべますか?」
そう聞かれたとき、お客さんの頭に、あなたの会社の名前は浮かぶでしょうか。
「いい仕事をしているのに、なかなか選ばれない」「相見積もりになると、いつも値段で負けてしまう」。中小企業の経営者から、よく聞くお悩みです。
その原因は、腕や品質ではなく、お客さんの頭の中に「置き場所」がないことかもしれません。置き場所を決める考え方を、ポジショニングといいます。
この記事では、ポジショニングの意味から、中小企業が紙とペンで進められる5つのステップ、よくある失敗までをまとめました。
この記事でわかること
- ポジショニングの意味と、USP・差別化との違い
- 中小企業こそポジショニングが必要な理由
- ポジショニングマップの描き方
- 自社のポジションを決める5ステップと、よくある失敗
ポジショニングとは「お客さんの頭の中の、自社の置き場所」
ポジショニングとは、お客さんの頭の中で、自社が「何の会社」として覚えられているかを決めることです。
この考え方を広めたのは、アメリカの広告人アル・ライズとジャック・トラウトです。2人は1972年に広告業界誌『アドバタイジング・エイジ』で連載記事を書き、1981年に本『ポジショニング』(原題:Positioning: The Battle for Your Mind)を出しました。
2人が伝えたのは、「商品そのものを変えるより、お客さんの頭の中でどう位置づけられるかが大事だ」ということです。お客さんは毎日たくさんの情報にふれているので、ひとつの分野で覚えていられる会社は、ほんの数社しかありません。
ポイント
- ポジションは、会社の中ではなくお客さんの頭の中にある
- 「何でもできる会社」は、どの棚にも置いてもらえない
- 置き場所が決まると、必要なときに思い出してもらえる
USP・差別化との違い
ポジショニングと似た言葉に、USP(お客さんが選ぶ理由を一言にしたもの)や差別化があります。違いを表にまとめました。
| 何を決めるか | たとえると | |
|---|---|---|
| ポジショニング | どの分野で、何の会社として覚えてもらうか | お店の中の「棚」を決める |
| 差別化 | 同じ棚に並ぶほかの会社との違い | 棚の中で、ほかの商品と違うところ |
| USP | お客さんが選ぶ理由(得+証拠) | 手に取ってもらう決め手のひと言 |
順番としては、まずポジショニングで「どの棚に置いてもらうか」を決め、そのうえで差別化とUSPを考えます。USPの作り方は、USPとは?中小企業が「選ばれる理由」を一言にする方法でくわしく紹介しています。
なぜ中小企業こそポジショニングが必要なのか
大手企業は、広告費と知名度で、たくさんの棚に名前を並べられます。中小企業には、その予算がありません。
だからこそ、小さくてもいいので、ひとつの棚の一番前に立つことが大切です。ポジショニングは、限られたお金と人で戦う中小企業のための、経営戦略そのものといえます。

1. 値段で比べられにくくなる
お客さんから見て違いがわからない会社は、最後は値段で比べられます。「この分野なら、あの会社」と思われていれば、そもそも比べる相手が少なくなります。
2. 紹介が起こりやすくなる
紹介する人は、「〇〇で困っているなら、あの会社がいいよ」と一言で説明できるときに、紹介してくれます。ポジションがはっきりしている会社は、紹介のセリフが短くてすみます。
3. やらないことが決まり、経営がラクになる
ポジションを決めると、「この仕事は受ける」「この仕事はほかの会社にお任せする」という判断がしやすくなります。人とお金を、得意なところに集められるようになります。
4. ホームページやチラシの言葉に迷わなくなる
何を書けばいいか迷うのは、自社が何の会社として見られたいかが決まっていないからです。ポジションが決まれば、ホームページの一番上の言葉も、チラシの見出しも、SNSのプロフィールも、そこから考えればよくなります。言葉やデザインは、ポジションを伝えるための道具なのです。
ポジショニングマップで「空いている場所」を見つける
ポジショニングを考えるときに便利なのが、ポジショニングマップです。たて・よこ2本の線(軸)を引いて、自社とほかの会社がどこにいるかを書きこむ地図のことです。
大切なのは、軸を「お客さんが比べるときのものさし」で選ぶことです。会社が言いたいことではなく、お客さんが気にしていることを軸にします。
軸の例(いずれも架空の例です)
- 学習塾:「集団授業 ⇔ 個別指導」×「受験対策 ⇔ 苦手の克服」
- 印刷会社:「とにかく早く ⇔ じっくり相談」×「少ない部数 ⇔ たくさんの部数」
- 整体院:「その場の痛みをとる ⇔ 体質から整える」×「通いやすさ重視 ⇔ 専門性重視」
マップに自社とほかの会社を書きこむと、会社が集まっている場所と、だれもいない場所が見えてきます。だれもいない場所に、お客さんがいて、自社が得意なことが重なっていれば、そこがねらい目です。

ただし、だれもいない場所には「お客さんもいない」こともあります。空いている場所を見つけたら、本当に困っている人がいるかどうかを、必ずお客さんに確かめましょう。
マップを使うと、こんな会話ができる
たとえば、ある学習塾(架空の例です)がマップを描くと、近くの塾の多くが「集団授業×受験対策」に集まっていて、「個別指導×苦手の克服」にはほとんどいないことがわかったとします。
そこで、「勉強が苦手な中学生が、学校の授業についていけるようになる塾」というポジションを考えます。こうして言葉にしてみると、チラシに書くこと、先生の採用で大切にすること、教室の雰囲気まで、決めやすくなります。ポジションは、広告だけでなく経営のいろいろな判断の物差しになるのです。
ポジショニングの決め方5ステップ
ここからは、紙とペンを用意して、実際に進めてみてください。


最初から正解を出さなくて大丈夫です。マップは何枚描いてもいいので、まずは手を動かしてみてくださいね。
ステップ1:一番来てほしいお客さんを決める
ポジションは、「だれの頭の中に置いてもらうか」で変わります。最初に、一番来てほしいお客さんを1人思い浮かべてください。
これまでで一番喜んでくれたお客さん、また来てほしいと心から思うお客さんは、どんな人でしょうか。その人の仕事、年代、困っていたことを書き出します。
ワーク 一番来てほしいお客さんを1人決めて、仕事・年代・困っていたことを書き出しましょう。
ステップ2:お客さんが比べる「ものさし」を書き出す
ステップ1のお客さんが、会社を選ぶときに何を比べているかを考えます。値段、早さ、相談しやすさ、専門性、近さ、アフターフォローなどです。
わからないときは、お客さんに「うちに決める前に、ほかの会社とは何を比べましたか?」と聞いてみてください。経営者が思っている理由と、お客さんの理由がちがうことはよくあります。
ワーク お客さんが会社を選ぶときのものさしを、思いつくだけ書き出しましょう。そのうち、お客さんが特に気にしているものに丸をつけます。
ステップ3:2本の軸でマップを描く
丸をつけたものさしから2つ選び、たてとよこの軸にします。そこに、自社と、お客さんが比べそうなほかの会社を3〜5社書きこみます。
2つの軸は、なるべく関係のうすいものを組み合わせます。「値段」と「品質」のように、片方が上がるともう片方も上がりやすい組み合わせだと、会社が一列に並んでしまい、違いが見えません。
ワーク 軸の組み合わせを変えて、マップを3枚描いてみましょう。一番「会社がばらける」マップを選びます。
ステップ4:空いている場所を見つける
マップの中で、ほかの会社が少ない場所を探します。そこが、お客さんが求めていて、自社が得意で、ほかの会社がやっていない場所かどうかを確かめます。
3つのうち1つでも欠けていたら、別の場所を探すか、軸を変えてみてください。とくに「自社が得意か」は大切です。得意でない場所を選ぶと、言葉だけが先に走り、お客さんの期待に応えつづけることができません。ポジションは、約束しつづけられる場所に置きましょう。
ワーク 空いている場所を2つ選び、「お客さんが求めているか」「自社が得意か」に〇×をつけましょう。
ステップ5:一言にして、お客さんに確かめる
最後に、見つけた場所を一言にします。型は次のとおりです。
「(だれ)にとって、(ものさし)なら、いちばんに思い出してもらえる会社」
記入例(架空の例です)
「はじめてチラシを作る小さなお店にとって、じっくり相談できる印刷会社なら、いちばんに思い出してもらえる会社」
できたら、取引先やお客さんに「うちって、こういう会社に見えますか?」と聞いてみましょう。うなずいてもらえたら、そのポジションは本物です。首をかしげられたら、ステップ2に戻ります。
ワーク 型に当てはめた一言を書き、お客さんか取引先の2人に見せて、感想をメモしましょう。
決めたポジションを出す場所
- ホームページの一番上
- 名刺や会社案内の1ページ目
- SNSのプロフィール欄
- 営業のときの自己紹介
どこで見ても同じ一言になっていることが大切です。決めたポジションは、ブランドコンセプトの土台にもなります。
ポジショニングで、よくある3つの失敗
1. 「何でもできます」をやめられない
仕事を断るのはこわいものです。でも、何でもできる会社は、お客さんから見ると何の会社かわかりません。
こう直す:「何でもできる」は残したまま、入り口だけを一つに絞ります。ホームページの一番上には得意な分野を書き、ほかの仕事は下のほうで紹介します。
2. 会社が言いたいことを軸にしてしまう
「技術力」「こだわり」など、会社が自信のある言葉を軸にすると、どの会社も同じ場所に集まってしまいます。
こう直す:軸は、ステップ2でお客さんから聞いた「比べるものさし」から選びます。お客さんの言葉をそのまま使うと、ずれにくくなります。
3. すぐにポジションを変えてしまう
お客さんの頭の中に置き場所ができるには、時間がかかります。半年ほどで変えてしまうと、一から覚え直してもらうことになります。
こう直す:決めたら、少なくとも1年は同じ言葉を出しつづけます。見直すのは、お客さんや事業が大きく変わったときです。

絞るのは、勇気がいりますよね。でも、絞った会社ほど思い出してもらいやすくなります。まずはホームページの一番上の一言から変えてみませんか。
ポジショニングのセルフチェック
- 一番来てほしいお客さんが、1人に決まっているか
- 軸は、お客さんが比べるものさしになっているか
- その場所に、本当に困っているお客さんがいるか
- 自社が得意で、つづけられることか
- ホームページや名刺で、同じ一言を使っているか
よくある質問
Q. 空いている場所が見つからないときは?
軸を変えてみてください。同じ会社たちでも、ものさしを変えると並び方が変わります。また、お客さんを「地域」や「はじめての人」などでもう少し絞ると、空いている場所が見つかりやすくなります。小さな市場で1番をめざす考え方は、ニッチトップ戦略とは?でも紹介しています。
Q. 絞ると、お客さんが減りませんか?
入り口を絞っても、ほかの仕事を断る必要はありません。思い出してもらえる回数が増えるぶん、問い合わせの入り口はむしろ広がることがあります。
Q. 大手と同じ分野でも、ポジションはとれますか?
とれます。大手と同じ棚で戦うのではなく、「地域」「相談のしやすさ」「小さな注文」など、大手がやりにくいものさしを軸にすると、中小企業ならではの場所が見えてきます。
まとめ:ポジショニングは「思い出してもらう」ための経営戦略
この記事のまとめ
- ポジショニングとは、お客さんの頭の中で「何の会社」として覚えてもらうかを決めること
- 中小企業こそ、ひとつの棚の一番前に立つことが大切
- マップの軸は、お客さんが比べるものさしで選ぶ
- 決め方は「お客さん」→「ものさし」→「マップ」→「空いている場所」→「一言にして確かめる」
- 決めたら、どこでも同じ一言を出しつづける
ポジショニングは、見た目や言葉を整える前に決める、経営の土台です。ここが決まると、ロゴもホームページもSNSも、同じ方向を向きはじめます。
自社のポジションを、経営戦略から一緒に考えませんか
UNIBRANDは、言葉もデザインも、経営戦略のひとつと考えています。だからこそ、どこにポジションをとるかという戦略から考えて、言葉やデザインの形にするところまで、ひとつながりでお手伝いしています。
「自社が何の会社として見られているかわからない」「絞りたいけれど、どこに絞ればいいか迷っている」。そんなときは、お気軽にご相談ください。
