
この記事は、会社の存在意義を言葉にしたいけれど、きれいごとで終わらせたくない社長に読んでほしいと思って書きました。
「あなたの会社は、何のためにあるのですか?」
社員や取引先からそう聞かれたら、すぐに答えられるでしょうか。
「売上を上げるため」「社員とその家族を守るため」。どちらも大切なことです。でも、それだけでは、お客さんや、これから入ってくる社員の心は動きにくいものです。
最近よく聞く「パーパス経営」は、大企業だけの話ではありません。むしろ、社長の想いがそのまま会社の形になっている中小企業こそ、取り入れやすい考え方です。
この記事では、パーパス経営の意味から、経営理念との違い、中小企業が紙とペンで進められる作り方5ステップ、よくある失敗までをまとめました。
この記事でわかること
- パーパス経営の意味と、経営理念・ミッション・ビジョンとの違い
- 中小企業こそパーパスが必要な理由
- 自社のパーパスを一文にする5ステップ
- パーパスを「飾るだけ」で終わらせない使い方
パーパス経営とは「何のためにあるか」を軸に経営すること
パーパス(purpose)は、英語で「目的」「存在する理由」という意味です。ビジネスでは、「この会社は、社会やお客さんにとって何のためにあるのか」を表す言葉として使われます。
パーパス経営とは、そのパーパスを経営の真ん中に置き、商品づくりも、採用も、お金の使い方も、そこから考えていく経営のことです。
この言葉が広く注目されたきっかけの一つが、2019年8月の出来事です。アメリカの大企業の経営者が集まる団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が、181人の経営者の署名とともに「企業の目的に関する声明」を出しました。株主だけでなく、お客さん、社員、取引先、地域など、関わるすべての人のために経営する、という内容です。
ポイント
- パーパスは「何を売るか」ではなく「なぜこの会社があるのか」
- もうけを否定する考え方ではない。もうけは、パーパスをつづけるための力
- 社長の想いが会社に近い中小企業ほど、言葉にしやすい
経営理念・ミッション・ビジョンとの違い
パーパスと似た言葉はたくさんあります。会社によって使い方はさまざまですが、この記事では次のように整理します。
| 答える問い | 向いている方向 | |
|---|---|---|
| パーパス | 何のためにこの会社があるのか | 社会・お客さん |
| ミッション | そのために、何をするのか | 日々の仕事 |
| ビジョン | どんな未来をめざすのか | 数年先のゴール |
| 経営理念 | 会社として大切にする考え方 | 社内の判断の土台 |
すでに経営理念がある会社は、新しく作り直す必要はありません。経営理念の中にある「何のために」の部分を、外の人にもわかる言葉で取り出したものが、パーパスだと考えてみてください。
「なぜ」から伝えるゴールデンサークル
パーパスを考えるときによく紹介されるのが、アメリカの作家サイモン・シネックが2009年の講演(TEDxPuget Sound「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」)で話した「ゴールデンサークル」です。
円の真ん中に「なぜ(WHY)」、その外に「どうやって(HOW)」、一番外に「何を(WHAT)」を置きます。多くの会社は「何を売っているか」から話しますが、人の心を動かす会社は「なぜ」から話す、という考え方です。

なぜ中小企業こそパーパスが必要なのか
大企業は、知名度やお給料の高さで、お客さんや社員を集めることができます。中小企業は、同じやり方では勝てません。だからこそ、「この会社の考え方が好き」で選ばれる理由が大切になります。
1. 値段以外で選ばれる理由になる
商品の違いが見えにくい時代は、お客さんは「どの会社から買うか」で選ぶようになります。何のためにある会社かがはっきりしていると、その考え方に共感したお客さんが、値段だけでなく会社そのものを選んでくれます。
2. 採用で、合う人が集まりやすくなる
求人票に書けるのは、お給料や休みのことだけではありません。「何のために働く会社か」が書かれていると、それに共感する人が応募してくれます。入社してからの「思っていたのとちがう」も減らせます。
3. 社員が自分で判断できるようになる
社長がいないときに、社員が迷ったらどうするか。パーパスがあれば、「この会社は何のためにあるのか」に立ち返って判断できます。社長がすべてを決めなくても、同じ方向に進めるようになります。
4. 発信の言葉に芯が通る
ホームページ、SNS、会社案内。どれも「なぜ」が決まっていれば、そこから言葉を広げていけます。言葉やデザインがばらばらになるのは、真ん中の「なぜ」が決まっていないことが多いのです。
パーパスの作り方5ステップ
ここからは、紙とペンを用意して、実際に進めてみてください。


パーパスは、きれいな言葉を考えることではありません。社長の中にもうある想いを、掘り出す作業です。かっこよさより、自分の言葉であることを大切にしてくださいね。
ステップ1:創業のきっかけを書き出す
会社を始めたとき、または継いだとき、何に心が動いたのかを思い出します。「こんなことで困っている人がいた」「もっとこうすればいいのに、と思った」。小さなきっかけでかまいません。
2代目、3代目の社長なら、先代がなぜ会社を始めたのかを、古い資料や昔からの社員の話からたどってみるのもおすすめです。
ワーク 会社を始めた(継いだ)ときのきっかけと、そのときの気持ちを、思いつくまま書き出しましょう。
ステップ2:「ありがとう」と言われた場面を集める
お客さんから心からお礼を言われた場面を、できるだけたくさん思い出します。そのとき、お客さんは何に困っていて、何が変わったのでしょうか。
社長だけでなく、社員にも聞いてみてください。現場で受け取っている「ありがとう」の中に、会社が何のためにあるのかのヒントがあります。
ワーク 「ありがとう」と言われた場面を5つ書き出し、それぞれ「お客さんの困りごと」と「変わったこと」を一行ずつメモしましょう。
ステップ3:「だれの、何を良くしているか」を考える
ステップ1と2で書き出したものを見くらべて、共通していることを探します。会社がいつも「だれの」「どんなこと」を良くしているのかが見えてきます。
ここでは、商品の名前を使わないのがコツです。たとえば「家を建てる」ではなく「家族が安心して暮らせる場所をつくる」のように、商品の先にあるお客さんの変化を言葉にします。
ワーク 「わが社は(だれ)の(どんなこと)を良くしている」という形で、候補を3つ書きましょう。
ステップ4:型に当てはめて一文にする
候補の中から一番しっくりくるものを選び、次の型に当てはめます。
「私たちは、(だれ)の(困りごと)を(自社らしいやり方)で解決し、(どんな未来)をつくるためにあります」
記入例(いずれも架空の例です)
- 会計事務所:「私たちは、数字が苦手な社長の不安を、毎月の対話でほどき、安心して挑戦できる会社を増やすためにあります」
- 食品メーカー:「私たちは、忙しい家庭の夕ごはんを、地元の野菜を使った手軽な一品で支え、食卓の会話を増やすためにあります」
- 製造業:「私たちは、小さな部品の困りごとを、図面がなくても相談できるものづくりで解決し、町工場の技術をつなぐためにあります」
最初は長くてかまいません。読み返して、なくても意味が通じる言葉を削っていきます。
ワーク 型に当てはめた一文を書き、声に出して読んでみましょう。言いにくいところに線を引いて、短くします。
ステップ5:社員と確かめる
できた一文を、社員に見せて「これ、うちの会社らしいと思う?」と聞いてみてください。社員が「わかる」とうなずけば、そのパーパスは会社に根づきやすくなります。
反対に、「社長の想いはわかるけど、自分の仕事とつながらない」という声が出たら、ステップ3に戻ります。社員が自分の仕事と結びつけられる言葉にすることが大切です。
ワーク 社員3人以上に一文を見せて、「自分の仕事のどこにつながるか」を一言ずつ書いてもらいましょう。
パーパス経営で、よくある3つの失敗
1. 大きすぎる言葉にしてしまう
「世界を笑顔に」「社会に貢献する」。立派な言葉ですが、どの会社にも当てはまるので、自社らしさが伝わりません。
こう直す:「だれの」「何を」を具体的にします。「地域の」「はじめての」「小さな会社の」など、お客さんの顔が浮かぶ言葉を一つ入れるだけで、ぐっと自社らしくなります。
2. 作って、額に飾って終わる
パーパスを作ることがゴールになると、壁に貼られたまま、だれも思い出さなくなります。
こう直す:朝礼や会議で読み上げる、迷ったときに「パーパスに合っているか」で決める、など、使う場面を先に決めておきます。

3. 社長がひとりで決めて、上から渡す
社長の想いが真ん中にあるのは大切です。でも、できあがったものを渡すだけでは、社員にとっては「社長の言葉」のままです。
こう直す:ステップ2の「ありがとう」集めや、ステップ5の確かめに、社員を巻きこみます。自分も関わった言葉は、社員にとっても「うちの言葉」になります。社内に広げる方法は、インナーブランディングとは?でくわしく紹介しています。

最初の一文が完璧でなくても大丈夫です。使いながら言葉を磨いていけばいいので、まずは社員の前で一度読み上げるところから始めてみてください。
パーパスを、日々の経営に落とし込む
パーパスは、決めたあとが本番です。日々の経営の中で何度もふれることで、少しずつ社員やお客さんの中に根づいていきます。
「迷ったときの物差し」として使う
新しい仕事の依頼が来たとき、値下げを頼まれたとき、新しい商品を考えるとき。「これは、私たちのパーパスに合っているか?」と問いかけてみてください。答えがはっきりしない仕事は、受け方や進め方を見直すきっかけになります。
たとえば、ある会計事務所(架空の例です)のパーパスが「数字が苦手な社長の不安をほどく」だったとします。この事務所なら、書類をまとめて処理するだけの安い仕事より、毎月の対話を大切にできる仕事を選ぶ、という判断ができます。パーパスは、何をやらないかを決める力にもなるのです。
社長が、自分の言葉でくり返し話す
パーパスは、紙に書いてあるだけでは伝わりません。朝礼や面接、取引先とのあいさつなど、社長が自分の声で話す場面を増やしましょう。同じ言葉をくり返し聞くうちに、社員も自然と同じ言葉で会社を語れるようになっていきます。
パーパスを使いたい4つの場面
- 採用:求人票やホームページの採用ページの一番上
- 会議:新しい商品や仕事を受けるか迷ったときの物差し
- 発信:ホームページの会社紹介やSNSのプロフィール
- 社内:朝礼や新人研修で、社長が自分の言葉で話す
パーパスに社長の想いや会社の歩みを重ねると、ブランドストーリーにもつながっていきます。
よくある質問
Q. 経営理念があるのに、パーパスも作る必要がありますか?
新しく作り直す必要はありません。今の経営理念の中から「何のためにあるか」の部分を取り出し、お客さんや求職者にもわかる言葉に言い換えるだけでも、パーパスとして使えます。
Q. 社員が少ない会社でも意味がありますか?
あります。社員が数人の会社では、一人ひとりの判断が会社の印象を左右します。人数が少ないほど、全員で言葉をそろえやすいともいえます。
Q. パーパスは、一度決めたら変えてはいけませんか?
かんたんには変えないものですが、事業が大きく変わったときは見直してかまいません。年に一度、「今もこの言葉で働けているか」を社員と話す時間をとるのがおすすめです。
まとめ:パーパスは、社長の想いを経営の真ん中に置くこと
この記事のまとめ
- パーパス経営とは、「何のためにこの会社があるのか」を軸に経営すること
- 中小企業こそ、考え方への共感で選ばれる理由になる
- 作り方は「創業のきっかけ」→「ありがとう」→「だれの何を良くしているか」→「一文にする」→「社員と確かめる」
- 作ったあとに、採用・会議・発信で使ってはじめて意味を持つ
パーパスは、見た目や言葉を整える前に決める、経営の真ん中の言葉です。ここが決まると、ロゴもホームページも採用の言葉も、同じ方向を向きはじめます。
自社のパーパスを、経営戦略から一緒に考えませんか
UNIBRANDは、言葉もデザインも、経営戦略のひとつと考えています。社長のお話をうかがいながら、会社が何のためにあるのかという戦略の真ん中から考えて、言葉やデザインの形にするところまで、ひとつながりでお手伝いしています。
「想いはあるけれど、言葉にするとありきたりになってしまう」「パーパスを作ったけれど、社内で使えていない」。そんなときは、お気軽にご相談ください。
