
この記事は、社員によって会社の説明がばらばらで、同じ方向を向いてほしいと感じている経営者に読んでほしいと思って書きました。
「うちの会社は、どんな会社ですか?」。この質問を社員にしたら、みんな同じ答えが返ってくるでしょうか。
経営者は「お客さんの困りごとに、最後まで付き合う会社」だと思っている。ところが、ある社員は「値段が安い会社」、別の社員は「昔からある会社」と答える。こうしたずれは、多くの会社で起きています。
社員の答えがバラバラだと、お客さんに伝わる会社の顔もバラバラになります。どれだけ広告やホームページを整えても、お客さんが実際に会うのは社員だからです。
この記事では、社員が同じ言葉で会社を語れるようにする「インナーブランディング」について、意味から5つのステップ、よくある失敗までをまとめました。
この記事でわかること
- インナーブランディングの意味と、アウターブランディングとの違い
- 中小企業にこそインナーブランディングが効く理由
- 社員と一緒に進める5ステップ
- よくある失敗と、続けるためのコツ
インナーブランディングとは「社員が、同じ言葉で会社を語れるようにすること」
インナーブランディングの「インナー」は、内側という意味です。会社の内側、つまり社員に向けたブランディングのことをいいます。
ブランディングとは、「この会社は、こういう会社」という印象をつくっていくこと。インナーブランディングは、その印象を、まず社員一人ひとりの中にそろえる取り組みです。会社が大事にしていること、お客さんとの約束、選ばれる理由を、社員が自分の言葉で説明できる状態をめざします。

アウターブランディングとの違い
お客さんなど、会社の外に向けたブランディングを「アウターブランディング」と呼びます。2つは別々のものではなく、表と裏の関係です。
| アウター | インナー | |
|---|---|---|
| 誰に向けて | お客さん、取引先 | 社員 |
| どこで伝える | 広告、ホームページ、SNS | 朝礼、会議、ふだんの会話 |
| めざす状態 | 選ばれる理由が伝わる | 全員が同じ言葉で語れる |
| かかる時間 | 広告なら早く届く | 少しずつしみこむ |
外に向けて「お客さんの困りごとに、最後まで付き合います」と言っていても、電話に出た社員がそっけなければ、お客さんはがっかりします。外で言っていることと、中でやっていることをそろえるのが、インナーブランディングの役目です。
中小企業にこそ、インナーブランディングが効く理由
インナーブランディングは、大きな会社のものだと思われがちです。でも、じつは社員数の少ない会社ほど、効き目が大きいといえます。
1. 社員一人ひとりが「会社の顔」になる
社員が10人の会社なら、お客さんが会うのはその10人のうちの誰かです。一人の対応が、そのまま会社の印象になります。全員が同じ言葉を持っていれば、誰が対応しても同じ会社の顔が伝わります。
2. 経営者がいなくても、判断がぶれにくくなる
小さな会社では、何でも経営者に確認しないと決まらない、ということが起こりがちです。会社の軸が言葉になっていれば、社員は「うちの会社なら、こうするはず」と自分で判断できるようになります。
3. 採用と定着につながる
社員が自分の会社を自分の言葉で語れると、採用の場でも会社の魅力が伝わりやすくなります。入社した人にとっても、何を大事にすればいいかがはっきりしている会社は、働きやすい会社です。
4. 外に向けた言葉に、中身がともなう
ホームページや広告で約束したことを、社員が当たり前に実行している。お客さんがそれを体験すると、「言っていることと、やっていることが同じ会社」として信頼が深まります。外への発信が、口先だけで終わらなくなるのです。

インナーブランディングは、特別な制度を作ることではありません。経営者が大事にしていることを、社員と同じ言葉で話せるようにする。まずはそこからで大丈夫です。
言葉は「知る」だけでは、まだ伝わっていない
会社の理念や行動指針を額に入れて壁に飾っている会社は多いと思います。でも、社員がその言葉を知っていることと、それに沿って動けることは別です。

インナーブランディングのゴールは、3つ目の「動く」です。そこまで届けるには、言葉を配るだけでなく、社員が自分の仕事とつなげて考える時間が必要になります。
自分で関わったものは、大切に感じる
心理学には「IKEA効果」と呼ばれる考え方があります。ハーバード大学のマイケル・ノートン氏らが2012年に発表した研究で、人は、自分で手をかけて作ったものを、より高く評価することが示されました。組み立て式の家具で知られるIKEAにちなんだ名前です。
会社の言葉も同じです。経営者がひとりで作って配った言葉より、社員が意見を出し、一緒にまとめた言葉のほうが、「自分たちの言葉」として大切にされやすくなります。この研究では、作りかけで終わったものでは効果が弱まることもわかっています。だからこそ、途中で投げ出さず、最後まで一緒に仕上げることが大切です。
インナーブランディングの進め方5ステップ
ここからは、実際の進め方です。経営者ひとりで考える時間と、社員と一緒に考える時間を分けて進めます。

ステップ1:経営者の言葉で、会社の軸を書く
最初に、経営者が「この会社は何のためにあるのか」「お客さんに何を約束するのか」を書きます。上手な言葉でなくてかまいません。話し言葉のまま、思っていることを全部書き出します。
会社が何のためにあるのかを言葉にする方法は、パーパス経営の記事でも紹介しています。
ワーク 「うちの会社は、〇〇な人の、△△のためにある」という一文を、話し言葉のままで3つ書いてみましょう。
ステップ2:社員の言葉を集める
次に、社員に聞きます。いきなり「理念を考えて」と言うと、身構えてしまいます。次のような、答えやすい質問から始めてください。
- 「お客さんに言われて、うれしかったことは?」
- 「うちの会社の、ここは自慢できると思うところは?」
- 「知り合いにうちの会社を紹介するなら、何と言う?」
紙に書いてもらう、少人数で話してもらうなど、言いやすい形を選びます。経営者がいると言いにくい人もいるので、最初は書いてもらうほうが本音が集まりやすくなります。
集まった答えは、どれも否定せずに受け取ります。経営者のイメージと違う答えが出てきても、それは「お客さんからはそう見えているかもしれない」という大事なヒントです。ずれを見つけることも、このステップの目的のひとつです。
ワーク 上の3つの質問を紙にして社員に配り、名前を書かずに答えてもらいましょう。
ステップ3:みんなで一言にまとめる
ステップ1の経営者の言葉と、ステップ2の社員の言葉を並べ、何度も出てくる言葉に丸をつけます。重なっている部分が、経営者と社員が同じように感じている「会社の軸」です。
それを、短い一言にまとめます。このとき、経営者が最後に決めるとしても、途中の候補は社員にも見せて意見をもらいます。先ほどのIKEA効果のとおり、自分が関わった言葉は大切にされやすいからです。会社の軸を一言にする方法は、ブランドコンセプトの作り方もあわせて読んでみてください。
ワーク 重なった言葉から候補を3つ作り、社員に「一番うちらしいのはどれ?」と聞いてみましょう。
ステップ4:言葉を「行動の例」に置きかえる
一言ができても、それだけでは「動く」まで届きません。日々の仕事で、その言葉がどんな行動になるのかを、具体的な例にします。
言葉を行動に置きかえた例(いずれも架空の例です)
- 設備工事の会社「最後まで付き合う」→ 工事のあと1か月たったら、こちらから電話をして様子を聞く
- 歯科医院「怖くない歯医者」→ 治療の前に、何をするかを必ず一度説明してから始める
- 雑貨店「贈る人の気持ちまで包む」→ プレゼント用のときは、渡す相手のことを一つ聞いてから包む
行動の例があると、新しく入った社員でも「うちの会社では、こうする」がすぐにわかります。
ワーク まとめた一言について、「電話を受けたとき」「お客さんを迎えるとき」「困りごとを相談されたとき」の3場面での行動の例を書きましょう。
ステップ5:毎日の場面でくり返す
インナーブランディングは、一度説明して終わりではありません。社員がふだん目にする場面、耳にする場面で、くり返し使っていきます。
- 朝礼や会議で、言葉に沿った行動をした人を紹介する
- 迷ったときは「うちの言葉なら、どうする?」と聞き返す
- 採用の面接や、新人の最初の説明で必ず伝える
- 名刺やホームページなど、外に出す言葉にも同じ一言を使う
外に出す言葉と社内の言葉がそろうと、社員にとっても「本当に大事にしている言葉なんだ」と伝わります。
とくに、会社名やロゴ、ホームページを新しくするリブランディングのときは、言葉をそろえる絶好の機会です。見た目を変える前に社員と言葉をそろえておくと、新しい見た目にも中身がともないます。
ワーク 言葉を使う場面を3つ決めて、カレンダーに書き込みましょう(例:毎週月曜の朝礼で、言葉に沿った行動を1つ紹介する)。

社員の答えを読むと、経営者が思っていた以上に会社のことをよく見ている、と気づくことがあります。ぜひ一つひとつ、ゆっくり読んでみてくださいね。
インナーブランディングで、よくある3つの失敗
1. 言葉を作って、壁に貼って終わる
きれいな言葉ができると、それだけで満足してしまいがちです。でも、壁の言葉は、毎日見ているうちに背景になってしまいます。
こう直す:言葉を作ったら、必ずステップ4の「行動の例」まで作ります。そして、その行動をした社員を、みんなの前で具体的に紹介します。
2. 経営者だけで決めて、配ってしまう
経営者が考え抜いた言葉でも、上から配られただけの言葉は「自分たちの言葉」になりにくいものです。
こう直す:最後に決めるのは経営者でも、ステップ2と3で社員の言葉を入れ、候補の段階で意見を聞きます。一部でも社員の言葉が入っていると、受け取られ方が変わります。
3. 経営者の行動が、言葉と合っていない
「お客さん第一」と言いながら、経営者が目先の売上を優先する場面を見れば、社員は言葉よりも行動のほうを信じます。
こう直す:言葉を決めたら、まず経営者自身が一番の手本になります。迷ったときに経営者が「うちの言葉なら、こうする」と口に出して判断する姿を見せることが、何よりの説明になります。
インナーブランディングのセルフチェック(すべて「はい」なら合格)
- 社員に「うちの会社をひと言でいうと?」と聞くと、同じ答えが返ってくる
- その言葉が、どんな行動になるのかを社員が説明できる
- 社員の言葉が、作る途中で一部でも入っている
- 朝礼や会議など、言葉を使う場面が決まっている
- 経営者自身が、その言葉どおりに判断している
よくある質問
Q. 社員が数人の会社でも、必要ですか?
はい。人数が少ないうちは、経営者と社員が話す時間をとりやすく、言葉をそろえやすい時期です。人が増えてから始めるより、ずっと進めやすいといえます。
Q. 社員が乗り気でないときは、どうすればいい?
「理念を考えよう」と大きく始めず、ステップ2の「お客さんに言われてうれしかったこと」のような、答えやすい質問から始めてみてください。自分の仕事が認められる話から入ると、参加しやすくなります。
Q. どのくらいで効果が出ますか?
会社によって違うので、決まった期間はありません。目安として、社員に「うちの会社をひと言でいうと?」と聞いたときの答えがそろってきたかを、半年ごとに確かめるのがおすすめです。
まとめ:インナーブランディングは、社員と一緒に言葉を育てること
この記事のまとめ
- インナーブランディングとは、社員が同じ言葉で会社を語れるようにすること
- 中小企業は、社員一人ひとりが会社の顔になるので、効き目が大きい
- 言葉を「知る」だけでなく、「動く」まで届けることがゴール
- 進め方は「経営者の言葉」→「社員の言葉」→「一言にまとめる」→「行動の例」→「くり返す」
- 社員が作る途中に関わると、言葉が大切にされやすい
USP(お客さんが選ぶ理由)やブランドの言葉は、お客さんに届ける前に、まず社員の中にそろえておくことで、本当の力を持ちます。
インナーブランディングに、終わりはありません。新しい社員が入るたび、事業が変わるたびに、言葉を確かめ直し、行動の例を足していきます。経営者と社員が同じ言葉で会社を語れる時間が少しずつ増えていけば、それがそのまま、お客さんに選ばれる会社の力になっていきます。
インナーブランディングを、経営戦略から一緒に考えませんか
UNIBRANDでは、言葉もデザインも経営戦略のひとつと考えています。経営者のお話をうかがい、会社がこれからどこへ向かうのかという戦略から考えて、社員と共有できる言葉や、社内外で使うデザインの形にするところまでお手伝いしています。
「社員と同じ言葉で会社を語れるようにしたい」「理念はあるけれど、行動につながっていない」。そんなときは、お気軽にご相談ください。
