
この記事は、大手と同じ土俵で戦い続けることに、限界を感じている経営者に読んでほしいと思って書きました。
「うちの会社は、何の分野で1番ですか?」と聞かれて、答えられるでしょうか。
「地域では古いほうです」「品質ではどこにも負けません」。そう思っていても、お客さんから見ると、同じような会社はたくさんあります。大手と同じ土俵で比べられれば、広告の量でも値段でも、なかなか勝てません。
そこで中小企業に役立つのが、ニッチトップ戦略です。市場全体で1番をめざすのではなく、小さな市場を選んで、その中で1番になる。この記事では、その考え方と進め方を、紙とペンでできる形でまとめました。
この記事でわかること
- ニッチトップ戦略の意味と、ニッチ戦略との違い
- 中小企業にニッチトップが向いている理由(ランチェスター戦略の考え方)
- ニッチトップ戦略の進め方5ステップ
- よくある失敗と、その直し方
ニッチトップ戦略とは「小さな市場で1番になる」こと
ニッチ(niche)は、もともと「すき間」「くぼみ」という意味の言葉です。ビジネスでは、大きな市場の中にある、小さくて特定のお客さんが集まる市場をニッチ市場と呼びます。
ニッチトップ戦略とは、そのニッチ市場を自分で選び、その中で「この分野なら、あの会社」と真っ先に名前が挙がる存在になることです。売上の大きさで1番になるのではなく、お客さんの頭の中で1番になることをめざします。
ニッチ戦略とニッチトップ戦略の違い
似た言葉に「ニッチ戦略」があります。違いは、どこまでをめざすかです。
| ニッチ戦略 | ニッチトップ戦略 | |
|---|---|---|
| めざすこと | すき間の市場に入る | すき間の市場で1番になる |
| 考える順番 | 空いている場所を探す | 1番になれる場所を選ぶ |
| お客さんの見え方 | 専門の会社の1つ | この分野なら、あの会社 |
すき間に入るだけだと、あとから来た会社に追いつかれることがあります。1番になって名前を覚えてもらうところまでやりきるのが、ニッチトップ戦略です。
国も注目している考え方
経済産業省は、世界の小さな市場で高いシェアを持つ会社を「グローバルニッチトップ企業100選」として選んでいます。2014年に100社、2020年には113社が選ばれました。その多くは中堅・中小企業です。世界でなくても、地域や客層を絞れば、同じ考え方は小さな会社でも使えます。
なぜ中小企業にニッチトップが向いているのか
ここで役に立つのが、ランチェスター戦略です。もとは、イギリスのエンジニアのフレデリック・ランチェスターが、第一次世界大戦のころに考えた「戦いの数の法則」です。日本では、経営コンサルタントの田岡信夫が、これを販売や経営の戦略として広めました。
ランチェスター戦略では、会社を「強者(その市場で1番の会社)」と「弱者(それ以外の会社)」に分けて考えます。そして、弱者には弱者の戦い方があると教えています。

ポイントは、戦う場所を絞り、一点に集中して、その範囲で1番になること。これは、ニッチトップ戦略そのものです。人もお金も限られている中小企業が、大手と同じ戦い方をしないための考え方といえます。
大手は、市場が大きいほど力を発揮します。反対に、小さな市場では、お客さんとの距離の近さや、細かい要望に応える小回りが強みになります。中小企業は、大手が得意な場所ではなく、自社が力を出せる場所を選んで戦うことが大切です。
1. 価格で比べられにくくなる
「どこも同じ」に見える会社は、最後は値段で比べられます。「この分野なら、あの会社」と思われていれば、お客さんは値段より先に、あなたの会社を思い出してくれます。
2. 紹介と指名が増える
分野がはっきりしている会社は、紹介しやすい会社です。「〇〇で困っているなら、あそこがいいよ」と、紹介してくれる人が一言で説明できるからです。
3. 少ない予算でも届く
お客さんの範囲が小さいほど、どこに、どんな言葉で届ければいいかがはっきりします。広告費を広くばらまかずに、一番来てほしい人に向けて使えます。
ニッチトップは、ブランディングの土台になる
ニッチトップ戦略は、「どの市場で戦うか」を決める経営戦略です。同時に、「何の会社として覚えてもらうか」を決めることでもあります。だからこそ、ブランディングの土台になります。
ブランディングというと、ロゴや色など見た目の話だと思われがちです。でも、どの市場の誰に向けた会社なのかが決まっていなければ、どんなにきれいなロゴを作っても、お客さんの記憶には残りません。戦う場所を決めることは、ポジショニングを決めることでもあります。
1番になれる場所は、次の3つが重なるところにあります。

3つの円の見方
- 自社が得意なこと:ほかの会社より上手に、または早く、ていねいにできること
- 困っている人がいること:お金を払ってでも解決したい人が、一定の数いること
- 大手が来ないこと:市場が小さい、手間がかかるなどの理由で、大手が入りにくいこと
どれか1つが欠けると、1番にはなれません。得意でも困っている人がいなければ売れず、困っている人がいても大手が来れば価格で負けます。
ニッチトップ戦略の進め方5ステップ
ここからは、紙とペンを用意して、実際に書きながら進めてみてください。

「絞るのがこわい」と感じるのは自然なことです。いきなり今のお客さんを手放す必要はありません。まずは、紙の上で絞ってみるところから始めてみてくださいね。

ステップ1:自社の「得意」を棚卸しする
まず、これまでの仕事を振り返り、自社が得意なことを書き出します。経営者が当たり前だと思っていることほど、ほかの会社にはできないことがあります。
- お客さんから「助かった」と言われた仕事は何か
- ほかの会社に断られて、うちに来たお客さんはいたか
- 利益が出ていて、しかも社員が楽しそうにしている仕事は何か
ワーク これまでの仕事の中から「得意なこと」を10個書き出し、お客さんに喜ばれたものに〇をつけましょう。
ステップ2:「誰の・何の困りごと」で市場を切る
次に、市場を小さく切ります。業界の名前で切るのではなく、お客さんの困りごとで切るのがコツです。
市場の切り方の例
- 地域で切る:市内全域ではなく、駅から車で15分の範囲
- 客層で切る:はじめて家を建てる人、創業3年以内の会社など
- 用途で切る:お祝い用、急ぎの修理用、小ロットの試作用など
- 規模で切る:大手が受けない小さな数量や、少人数向け
切り口は1つでなくてもかまいません。「地域×客層」のように2つを組み合わせると、ぐっと小さく、1番になりやすい市場が見えてきます。
ワーク ステップ1で〇をつけた得意なことを、上の4つの切り口で切ってみて、「〇〇な人の、〇〇の困りごと」という形で3つ書き出しましょう。
ステップ3:大手が来ない理由を確かめる
候補の市場に、大手や強い同業がすでにいないかを確かめます。同業のホームページを3〜5社見て、同じ市場を名乗っている会社がいないか調べてください。
大手が来ない理由がはっきりしていれば、その市場は守りやすくなります。たとえば「数が少なくて大手にはもうからない」「一つずつ手作業が必要」「地域の人とのつながりがないと難しい」などです。
ワーク 候補の市場ごとに「大手が来ない理由」を1行ずつ書きましょう。理由が書けない市場には、×をつけて外します。
ステップ4:1番と言える範囲を決めて、言葉にする
残った市場の中から1つを選び、「何の、誰のための会社か」を一言にします。USP(選ばれる理由)の考え方と組み合わせると、言葉が具体的になります。
言葉にした例(いずれも架空の例です)
- 町の印刷会社:「100部からの、小さなお店のチラシ専門」
- 部品加工の会社:「試作品を1個から、3日で作る会社」
- 社会保険労務士事務所:「社員10人までの会社の、はじめての就業規則づくり」
- 洋菓子店:「アレルギーがあっても家族で食べられる、誕生日ケーキの店」
一言にするときは、「地域で一番」「業界で一番」のような広い言い方を避けます。範囲が広いと、お客さんは本当かどうか確かめられず、印象に残りません。範囲を小さく、具体的にするほど、言葉に説得力が出ます。
どれも、市場全体から見ればとても小さな範囲です。でも、その範囲なら「1番に思い出してもらえる」と言い切れることが大切です。
ワーク 「(誰)の、(何の困りごと)なら、うちが1番」という一文を、声に出して読める長さで書きましょう。
ステップ5:その市場の中で、深く広める
1番の範囲が決まったら、その市場のお客さんに、くり返し同じ言葉で届けます。ホームページの一番上、名刺、会社案内、SNSのプロフィールなど、お客さんが目にする場所を同じ言葉でそろえましょう。
広く知ってもらうよりも、決めた市場の中で、深く知ってもらうことを優先します。紹介してくれる人、同じお客さんを持つ別の業種の会社とのつながりも、この段階で大きな力になります。
ワーク 決めた一言を出す場所を5つ書き出し、今の言葉とそろっているかを確かめましょう。そろっていない場所に印をつけて、直す順番を決めます。
ニッチトップ戦略で、よくある3つの失敗
1. 市場を小さくしすぎて、売上が足りない
絞りすぎると、そもそもお客さんの数が足りなくなります。1番になっても、経営が成り立たなければ意味がありません。
こう直す:決めた市場に、お客さんになりそうな人や会社がどれくらいいるかを、ざっくり数えます。必要な売上に届かないときは、切り口を1つゆるめます。
2. 市場は絞ったのに、発信は広いまま
社内では絞ったつもりでも、ホームページには「何でもできます」と書いてある。これでは、お客さんには絞ったことが伝わりません。
こう直す:ホームページの一番上の言葉を、ステップ4の一言に置きかえます。ほかの仕事は、下のほうで「こちらもお受けしています」と紹介すれば大丈夫です。
3. 1番になったあと、何もしない
ニッチ市場で1番になると、その市場をねらう会社も出てきます。何もしないでいると、少しずつ追いつかれてしまいます。
こう直す:年に一度、お客さんに「今もうちを選ぶ理由は何ですか」と聞き、その答えをもとに、サービスと言葉を少しずつ深めます。
ニッチトップ戦略のセルフチェック(すべて「はい」なら合格)
- 決めた市場は「誰の・何の困りごと」で説明できるか
- その市場に、お金を払ってでも解決したい人が十分にいるか
- 大手や強い同業が来ない理由を、1行で言えるか
- 「この範囲なら1番」と、社員も同じ言葉で言えるか
- ホームページや名刺の言葉が、決めた市場に向けてそろっているか
よくある質問
Q. 市場を絞ると、今のお客さんが離れませんか?
絞るのは「何の会社として覚えてもらうか」であって、ほかのお客さんを断ることではありません。看板を一つに絞っても、今のお客さんとのお付き合いはそのまま続けられます。
Q. 自分の業界には、ニッチな市場なんてない気がします。
業界の名前で考えると、すき間は見つかりにくいものです。ステップ2のように、地域・客層・用途・規模で切ってみてください。同じ業界でも、困りごとで切ると、まだ誰も1番になっていない場所が見えてきます。
Q. どのくらいで1番になれますか?
市場の大きさや競合によって違うので、一概には言えません。ただ、範囲が小さいほど、早く「あの会社」と思ってもらいやすくなります。まずは、決めた範囲で同じ言葉を出し続けることが近道です。
まとめ:1番になれる場所は、自分で選べる
この記事のまとめ
- ニッチトップ戦略とは、小さな市場を選んで、その中で1番になること
- ランチェスター戦略でいう弱者の戦い方=戦う場所を絞り、一点に集中すること
- 1番になれる場所は「得意」「困っている人」「大手が来ない」の3つが重なるところ
- 進め方は「得意の棚卸し」→「市場を切る」→「大手が来ない理由」→「一言にする」→「深く広める」
ニッチトップ戦略は、会社の規模が小さいことを弱みではなく、小回りがきく強みに変える考え方です。どの市場で1番になるかは、経営者が自分で選べます。

1番になる場所は、遠くではなく、今のお客さんのすぐそばにあることが多いものです。まずは、一番喜んでくれたお客さんの顔を思い浮かべるところから始めてみてください。
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