
この記事は、「ブランディングをしたほうがいいのは分かっている。でも、何のためにやるのかを社員に説明できない」という経営者に読んでほしいと思って書きました。
「ロゴを新しくしたい」「ホームページを作り直したい」。ブランディングを考えると、まず浮かぶのは、こうした“手段”ではないでしょうか。
では、「1年後に何が変わっていたらうれしいですか?」と聞かれたら、すぐに答えられるでしょうか。
ブランディングで最初に決めるのは、デザインではなく、この問いの答えです。
この記事では、いま一番痛い困りごとから目的を1つ選び、範囲と“ものさし”までセットで決める方法を、5つのステップとワークで説明します。
この記事でわかること
- ブランディングの目的とは何か(目的と手段の違い)
- 中小企業によくある5つの目的の型
- 目的と範囲を決める5ステップと「目的シート」
- よくある失敗と、よくある質問
ブランディングの目的とは?「選ばれる理由」をつくって、いまの困りごとを解決すること
ブランディングの目的とは、「何のためにブランディングをするのか」の答えです。具体的には、いまの困りごとと、それが解決した1年後の姿です。ブランディングでは、お客さんに「選ばれる理由」をつくることで、その困りごとを解決していきます。
目的と手段を分ける
ロゴ、ホームページ、SNSは、すべて手段です。目的は、「値下げをしなくても選ばれる」「募集に応募が来る」のように、手段を使った先で会社の何が変わっているかで書きます。
私が受けた相談に、「今までよりお客さんの層を変えたい」「今のウェブサイトが、お客さんからの見られ方と合っていない気がする」というものがあります。技術で勝負するようなサイトを、もっとお客さんに寄り添う温かいサイトとして見せたい、という話でした。ロゴなども、全部作り直しています。
目的は最初から比較的はっきりしていて、そのあと一緒にワークをしながら、どんなキーワードがその会社に合っているかを考えていきました。目的が先に決まっていると、次の「どんな言葉で見せるか」に進めます。
9ステップの1つ目に来る理由
UNIBRANDでは、ブランディングを「調べる・決める・育てる」の3工程・9ステップで進めています。目的と範囲を決めるのは、その1つ目です。
9ステップの早見表では、ステップ1で決まるものを「ゴールと優先順位」としています。これがないと、あとで「誰に選ばれたいか」「どう見せたいか」を決めるときの、判断のよりどころがなくなります。
目的は、次の3段で考えるとまとまります。

データで見る:取り組む中小企業は約3社に1社
「2022年版 中小企業白書」の調査(2021年・回答5,189社)では、ブランドづくりに取り組んでいる中小企業は36.8%。およそ3社に1社です。6割以上は取り組んでいないので、大きな困りごとがないなら、急がなくてもよいともいえます。

取り組んでいる会社のうち、取引価格の維持・引上げに役立っていると答えたのは、「大いに」「ある程度」を合わせて55.9%。取り組んでいない会社では、2割に届きません。
ただし白書自身が、「取組の有無以外の要因による差異についてはコントロールしていない」と注意書きをしています。ブランディングをすれば必ず値上げできる、とまでは言い切れません。
取組の中身で一番多いのは「メッセージの発信」で48.8%。一方、「ブランド価値の評価・分析」は25.1%で、測っている会社は4社に1社です。
測るところまで決めている会社は少ない。だからこそ、最初に目的とものさしを決めておくことが差になります。
中小企業のブランディング、目的はこの5つのどれか
「ブランディングのメリット」の一覧から目的を選ぼうとすると、どれも大事に見えて決められません。目的は、自社のいまの困りごとから選びます。中小企業によくある目的は、次の5つの型です。
ブランディングの目的 5つの型
| 目的の型 | こんな困りごと | 範囲の目安 | ものさしの例 |
|---|---|---|---|
| ① 値下げ競争から抜け出したい | 相見積もりで、最後は値段で決まる | 主力の商品・サービス | 値引きなしで決まった件数 |
| ② 採用に困っている | 募集しても応募が来ない | 会社全体(求職者向け) | 応募数・面接に来た人数 |
| ③ 新しい事業・商品を始める | 新しいことを、まだ誰も知らない | その事業・商品 | 問い合わせ数・試した人数 |
| ④ 紹介・指名を増やしたい | 広告を止めると、仕事が減る | 会社全体(お客さん向け) | 紹介での依頼の数 |
| ⑤ 社内の言葉と判断をそろえたい | 社員によって、説明や対応がちがう | 会社全体(社員向け) | 社員が会社を一言で説明できるか |
背景にある数字も見ておきましょう。①は、コストが上がった分のうち価格に反映できた割合(価格転嫁率)が54.2%(中小企業庁・2026年3月調査)。まだ半分ほどです。②は、正社員が足りないと答えた企業が50.6%(帝国データバンク・2026年4月調査、大企業を含む)と、約半数にのぼります。
⑤の社員向けのブランディングは、インナーブランディングとは?で解説しています。
型ごとの例(いずれも架空の例です)
- 運送会社:ドライバーの応募が来ない → ②採用。求職者向けに会社の見せ方を整える
- 美容室:近くに安いお店ができた → ①値下げ競争。主力メニューの選ばれる理由を言葉にする
- 造園会社:新しいサービスを始めたい → ③新しい事業。まずそのサービスだけを対象にする
型が違えば、範囲もものさしも変わります。自社がどの型に一番近いか、考えてみてください。
目的は1つに絞る(順番は、ふつう「集客→採用」)
型が分かったら、1つに絞ります。9ステップでいう「優先順位」を決める作業です。
私の見方:「全部」より「順番」
「採用も集客も全部やりたい」というお客さんは、たぶんいない。これが私の見方です。集客ができていなければ、採用を強化したいとは思わないからです。ふつうは先に集客。集客ができて、仕事に手が回らなくなってから、採用を考えるものです。
まだお客さんが足りないなら集客、仕事はあるのに人が足りないなら採用。いまの会社の段階が分かれば、目的は1つに決まります。
研究で見る:具体的な目標ほど成果が出る
目標の研究で知られるロックとレイサムは、35年分の研究をまとめた論文(2002年)で、具体的でむずかしい目標は、「ベストを尽くせ」という目標よりも、一貫して成果が高いと報告しています。もとになったのは、8か国以上・40,000人を超える人の研究です。
Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a practically useful theory of goal setting and task motivation. American Psychologist, 57(9), 705–717.
同じ論文では、目標どうしがぶつかると、成果が下がることにもふれています。たとえば求職者には「ゆとりのある働き方」、お客さんには「どこよりも速い対応」を伝えたい場合、2つを同時に追うと言葉の向きが逆になります(論文は組織と個人の目標の話なので、ここではたとえとして使っています)。
絞りすぎの落とし穴もある
反対の立場の研究もあります。オルドニェスらの論文(2009年)は、目標を狭く決めすぎると、目標以外の大事なことが置き去りになると指摘しています。そこで、目的と一緒に「守るもの(お客さんへの約束)」も書いておきます。

目的に迷ったら、いまの会社が「集客」と「採用」のどちらの段階にいるかを確かめてみてください。1つ目が進んだら、2つ目に進めばいいんです。
ブランディングの目的と範囲の決め方5ステップ
紙とペンを用意して進めてみてください。終わるころには「目的シート」が1枚できあがります。

ステップ1:困りごとを書き出す
いまの困りごとを、「お金」「人」「時間」の3つの箱に分けて書き出します。
- お金:値下げを求められる、利益が残らない
- 人:応募が来ない、社員によって説明がちがう
- 時間:経営者が営業に追われる
ワーク 3つの箱に、困りごとを3つずつ書き出しましょう。
ステップ2:一番痛い1つを選ぶ
選ぶ基準は、「放っておくと、1年後に一番困るもの」です。
迷ったら、先ほどの「集客→採用」の順番で考えます。
ワーク 困りごとに「1年後に困る順」で番号をふり、1番を丸で囲みましょう。
ステップ3:1年後の変化を1文にする
困りごとが解決した1年後の姿を1文にします。まとめ記事のワークと同じ問いです。「値引きの相談が来なくなっている」のように、見て分かる変化で書くのがコツです。
私も、UNIBRANDのUSP(お客さんが選ぶ理由)の方向性には、ずっと悩んでいました。それを明確にしたいと思ったのは、サイトで公言するためです。目的は、このくらい具体的なものでかまいません。USPの作り方はUSPとは?でまとめています。
ワーク 「ブランディングをして、1年後に何がどう変わっていたらうれしいか」を、1文で書いてみましょう。
ステップ4:範囲を決める
対象にする範囲を、2つの軸で決めます。
- 何を:会社全体か、1つの事業・商品・サービスか
- 誰に向けて:お客さん向けか、求職者向けか、社員向けか

採用や紹介なら会社全体から、値下げ競争や新しい事業なら、その商品から始めるのが自然です。
ワーク 「何を」「誰に向けて」を1つずつ選んで書きましょう。
ステップ5:ものさしと見直しの日を決める
目的に近づいているかを確かめるものさしを決めます。ブランディングの効果測定にあたる部分です。
私は、ものさしはお客さんによって変わると考えています。まず「お客さんがほしい数字は何か」を一緒に考えます。ただ、ほしい数字そのものより、その1歩前・2歩前の数字を一緒に見ることが多くあります。
たとえば、ほしい数字が「応募数」なら、1歩前は「採用ページを見た人の数」、2歩前は「求人を目にした人の数」です。ゴールの数字はすぐに動かなくても、手前の数字なら変化に早く気づけます。
ロックとレイサムの論文でも、慣れない複雑な課題では、「学ぶ目標」や近くの小さな目標を置くと成果が上がった研究が紹介されています。
- 成果の数字:応募数、値引きなしで決まった件数、紹介での依頼の数など(ゴールの数字)
- 行動の数字:その1歩前・2歩前の数字。採用ページを見た人の数など
KPI(途中で追いかける数字)は、行動の数字にあたります。見直しの日も3か月ごとなどに決めておくと、その場の気分で変えずにすみます。
ワーク 成果の数字を1つ、行動の数字を2つ決め、見直しの日をカレンダーに書きましょう。
目的シート(1枚の型)
- 困りごと:
- 目的(1年後の変化を1文で):
- 範囲(何を/誰に向けて):
- 守るもの(お客さんへの約束):
- ものさし(成果の数字/行動の数字):
- 見直しの日:
記入例(架空の例です・美容室の場合)
- 困りごと:近くに安いお店ができ、値下げを考えはじめている
- 目的:1年後、値下げをしなくても、いまの料金のまま予約が埋まっている
- 範囲:主力のカットメニュー/お客さん向け
- 守るもの:仕上がりの説明を、毎回ていねいにする
- ものさし:成果=いまの料金での予約数/行動=メニュー説明のページを見た人の数、次回予約をその場でいただけた数
- 見直しの日:3か月ごと

目的シートは、一度で完璧に書けなくて大丈夫です。社員さんと見せ合って書き直すうちに、自分たちの言葉になっていきます。
ブランディングの目的決めで、よくある3つの失敗
1. 「ブランディングをすること」が目的になっている
「ロゴを新しくする」が目的になると、できあがった時点で終わります。何が変わったのかを、誰も確かめられません。
こう直す:「1年後、〇〇になっている。そのためにロゴを新しくする」と、手段を目的のあとに置きます。
2. 順番を飛ばして、先の目的から始める
まだお客さんが足りないのに、採用向けの見せ方から整えてしまう失敗です。いまの段階に合わない目的は、成果につながりにくくなります。
こう直す:ステップ2で「お客さんが足りないのか、人が足りないのか」を先に確かめます。
3. 数字だけを追って、お客さんへの約束を忘れる
オルドニェスらが指摘するように、狭い目標だけを追うと、目標以外の大事なことが置き去りになりがちです。値引きなしの件数は増えたのに、お客さんの満足が下がっていては意味がありません。
こう直す:見直しの日に「守るもの」も読み返し、数字と約束の両方を見て決めます。
目的と範囲のセルフチェック(すべて「はい」なら次のステップへ)
- 目的が、手段ではなく「会社の変化」で書かれている
- 目的は1つに絞れている(2つ以上なら、順番がついている)
- 1年後の変化が1文になり、範囲(何を/誰に向けて)が決まっている
- 守るもの(お客さんへの約束)が書かれている
- 成果の数字と行動の数字、見直しの日が決まっている
よくある質問
Q. 途中で目的が変わってしまったら?
変わるのは自然なことです。集客が進んで手が回らなくなれば、次は採用が目的になります。ただし思いつきではなく、見直しの日に目的シートを見ながら変えます。
Q. 数字で測れない目的では、だめですか?
だめではありません。社員に「うちはどんな会社?」と聞いて一言で答えられるか、お客さんがどんな言葉で紹介してくれているか。こうした言葉も、立派なものさしです。
Q. 小さな会社は、会社全体と1つの商品、どちらから始めればいい?
目的の型で決めるのが基本です。迷ったら、一番売上に効いている1つの商品から始めて、確かめてから広げてみてください。経営目標とのつなげ方はブランド戦略の立て方で解説しています。
まとめ:最初に決めるのは、デザインではなく「何のために」
この記事のまとめ
- ブランディングの目的は「困りごと → 1年後の変化 → ものさし」の3段で決める
- ロゴやホームページは手段。目的は「会社の何が変わるか」で書く
- 目的は1つに絞る。順番は、ふつう「集客 → 採用」
- ものさしは、ゴールの数字と、その1歩前・2歩前の数字をセットで。「守るもの」も一緒に書く
次は9ステップの2つ目「想い・背景を書き出す」です。全体の流れはブランディングの進め方(3工程と9ステップ)でどうぞ。
ブランディングの目的を、経営戦略から一緒に考えませんか
UNIBRANDでは、言葉もデザインも、経営戦略のひとつと考えています。経営者のお話をうかがい、目的から考えて、言葉やデザインの形にするところまでお手伝いしています。
「ロゴやホームページを変えたいけれど、何のためかをうまく言葉にできない」「何をものさしにすればいいか分からない」。そんなときは、お気軽にご相談ください。
